キジ猫世間噺大系

一人暮らしで猫を飼った男の末路

10作しかない伊丹十三映画をまだ観てない人に全力でおすすめする

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伊丹十三ファンです。

僕が初めて俳優としての伊丹十三の演技を見たのは「北の国から」でした。田中邦衛が離婚した嫁の再婚相手という役柄でかなりニヒルなキャラだったのですが、悪カッコイイ男として強烈な印象を受けました。遊園地のパンチングマシーンを殴った後に、「ボクシングの経験はあるんですか」と聞く純に対して「真似だけな」とキザな一言。純も「実は僕はあのおじさんは嫌いではないわけで」と言っていたわけで。


キザ男の印象が強かった伊丹十三ですが、ひょんなことからエッセイ読んでみると、そんなにキザ男ではないぞ、と。こだわりは強いけどなんか洒落てるぞ。と。
そんなこんなで伊丹映画を一気見しましたが、結論から言うと、一気見はもったいなかったです。なぜなら全てハズレなしの名作揃いだったから。いや、ちょっとはハズレかな?ていうのもありましたよ、でも、日本映画低迷期に伊丹映画だけがヒットを飛ばし続けたのも納得の作品群です。 

と、いうわけで伊丹十三オタの僕が順を追ってレビューしていきます。
随所に見られる稀代のインテリ伊丹節にあなたも酔いしれましょう。

 

1作目『お葬式』(1984年)

伊丹十三初の脚本・監督作品でありながら、僕はこの作品が一番好きです。お葬式というこれ以上重たいものはないテーマを扱いながらこれほど軽妙に笑える作品は他にありません。訂正。軽妙な笑いというか爆笑です。内容としては、義父の葬式で山崎努があるあるネタを延々やってる感じとでも言いましょうか。個人的に好きなシーンは、宮本信子が葬式マニュアルビデオを観て、コメントを求められた時の「痛み入ります」の表現の便利さに気づくところ。フレーズの短さがいい、みたいな。謎の濡場も挟みつつ最後はほっこりまとめるところも流石。勉強にもなるし、文句なしにおすすめの一本です。

 

2作目『タンポポ』(1985年)

2chでも度々評価されている名作ですね。タンポポとは主人公が開くラーメン屋の店の名前。ストーリーとしてはさびれたラーメン屋をみんなで力を合わせて立て直していくことが主軸です。しかし、この映画は実験的な試みなのか、本編と関係ない食に関するエピソードが何本もガッツリ入っています。それが丁度コーヒーアンドシガレッツのような取り留めもない感じがしていい味を出していますし、若い役所広司が謎のヤクザを演じたりしててウケます。ちなみにこの映画から生まれた伊丹十三考案のタンポポオムライスは老舗洋食屋たいめいけんのメニューとして今でも人気です。なので、この映画は飯テロ注意ですね。

 

3作目『マルサの女』(1987年)

この映画でマルサ(国税局査察部)を知った人も多いのではないでしょうか。宮本信子演じる女捜査官が脱税者と戦う映画です。また、伊丹映画の最たる出世作でその年のアカデミー賞を総なめにしたことでも知られています。内容には一切の無駄がなく、展開にも全く息をつかせません。それでいて痛快。個人的には、山崎努演じるラブホテル経営者のラスボス権藤が最高のヒールでまじかっこいいと思ってます。悪者にも流儀があり、立場は逆だが主人公と権藤のシンパシーを上手く描いているところが最大の見どころだと思います。ちなみに映画を見た後は劇中の脱税の仕組みがわからずかなり調べました。よって社会勉強にもなる映画です。

 

4作目『マルサの女2』(1988年)

『マルサの女』の翌年に制作された第二弾です。今回の敵は地上げ屋やカルト宗教。当時社会問題になっていた地上げ屋の迫力は見事といったところ。ナニワ金融道で言うところの肉欲棒太郎顔負けですね。(分からない人多いですよね)主人公はカルト宗教の捜査で、教団に潜入して信者のフリをするシーンがあるのですが、その雰囲気がまじでオウム。ちなみに当時はまだオウム問題が表面化していなかったので、伊丹監督先見の明ありすぎ、と言わざるを得ません。個人的にはマルサ1より好きかもしれません。

 

5作目『あげまん』(1990年)

あげまんは当時流行語にもなったようですね。主人公ナヨコはあげまんで、付き合った男は皆出世していきます。そういった主人公に翻弄される男達を軽妙に描いています。正直言ってナヨコは美人ではありません。(あくまで個人的感想です)が、やっぱり男をやる気にさせるような発言をしていたり、男に安心感をもたらすようなキャラを見事に描いています。見終わった頃にはナヨコがとんでもなくいい女に見えてきて仕方なくなりますのでご注意を。って僕だけか。

 

6作目『ミンボーの女』(1992年)

ミンボーとは、民事介入暴力のこと。舞台はヤクザにゆすりを受けている観光ホテルで、できたばかりのハウステンボスをロケに使っています。バブルがまだ残っている時代で、映画はかなり派手な印象。なんか勢いがあって元気をもらえます。また、暴力団対策法が施行された時で、この映画の公開後、伊丹監督がヤクザに実際に襲撃されるという事件がありました。それもそのはず、映画の内容はヤクザの撃退の仕方をかなりリアルに描いています。ヤクザはいい気はしなかったでしょう。いじめられっこみたいなオッサン2人がヤクザ相手に成長していく様は見ていて感動すら憶えます。これもかなりおすすめです。

 

7作目『大病人』(1993年)

子供みたいでどうしようもない、がん宣告を受けた患者を三國連太郎がコミカルに演じています。臨死体験で三國連太郎が空を飛ぶシーンがあるのですが、日本映画初のCGを使った表現として話題になりました。ちなみにCGは今見ると笑ってしまうくらいお粗末なものですが、当時は画期的だったのですね。好きなシーンは主人公が皆に見守られて死ぬ時に、なかなかタイミングよく死ねず、「汽車のホームで別れの挨拶をしたけど汽車がなかなか来ないやつ」と自分で茶化すところ。自分が死ぬ時にみんなを笑わせるっていいよね。ストーリーとしては他のに比べたらちと外れかな。

 

8作目『静かな生活』(1995年)

この映画は公開後興行が振るわず、伊丹映画では珍しくあまり知られていない作品となっています。内容としては、両親の留守中に起こる障がい者の兄と妹の、日常を描いています。確かに題材としては地味かもしれませんね。とはいってもなかなか見ごたえのあるストーリーで、なんといっても渡部篤郎の障がい者の演技には目を見張るものがあります。先日、NHKの『バリバラ』という番組で障がい者自身が、24時間テレビは障がい者を感動の道具として扱う「感動ポルノ」だ、と批判したことが話題になっていますが、この映画でも何か考えさせられるものがあります。

 

9作目『スーパーの女』(1996年)

津川雅彦が経営する弱小スーパー「正直屋」が主人公の手を借りてライバル店「安売り大魔王」に戦いを挑んでいく話。この映画のすごいところは、雪印の事件や船場吉兆のささやき女将事件のずっと前に食品偽造をテーマとして扱っているところ。スーパーで鮮魚のラベルの日付を替えてリパックしてる描写があるのですが、こんなことどこでもやってたのかな。好きなキャラは鮮魚部の板前さん。どうしても不器用で合理的に考えられない頑固者がほだされるシーンはカタルシスやばい。

 

10作目『マルタイの女』(1997年)

マルタイとは護衛対象者のこと。女優のビワコが殺人現場を目撃するところから物語が始まり、犯人は“真理の羊”というカルト宗教の信者で、これが完全にオウム。あの手この手でビワコを殺そうとしてきます。このマルタイの題材は、「ミンボーの女」公開後に自身が暴漢に襲撃された経験を元にしているとのことです。襲撃されてなお、当時まだホットで危険極まりないオウムをモチーフに作品を撮る伊丹監督そこにしびれるあこがれるぅ!そして、残念ながらこの作品が監督の遺作となってしまったのでした。

  

うーん、全部書いてみたけどやっぱ伊丹十三大好きですわ。もっともっと伊丹監督の社会派映画が観たかった。早すぎる死が悔やまれますね。ちなみに『後妻業の女』なる映画がありますが、宣伝の雰囲気は完全に伊丹映画そのもの。オマージュですかね。

皆さんは、10作品の内とりあえず『お葬式』だけでも観てください。まじで観てください。観てないあなた、人生損してますよ!

 

『後妻業の女』感想はコチラ↓