キジ猫世間噺大系

一人暮らしで猫を飼った男の末路

大林宣彦監督『花筐』は3人のヤバいオッサンが繰り広げるエロ活劇だった

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話題になってるか分からないのですが、映画『花筐(HANAGATAMI)』を有楽町スバル座に観にいってきました。

たまたま今読んでる本が「10年前に読んでおきたかったスゴ本」で紹介されていた檀一雄の『檀流クッキング』で、野蛮な料理をひたすら紹介する名著なのですが、この『花筐』もなんと檀一雄が原作。しかも舞台が佐賀県の唐津ということで俄然興味が出てきたのでした。

僕自身唐津とは並々ならぬ縁があり、平たく言うと「出身」なのですが、これは観らんばいかん!と思って行ったところ、169分に渡って繰り広げられるエロ活劇に圧倒された。

 

あらすじ

1941年の春。佐賀県唐津に暮らす叔母(常盤貴子)の元に身を寄せる17歳の榊山俊彦(窪塚俊介)の新学期は、アポロ神のような逞しい美少年・鵜飼(満島真之介)、虚無僧のような吉良(長塚圭史)、お調子者の阿蘇(柄本時生)ら学友を得て“勇気を試す冒険”に興じる日々。一方で、肺病を患う従妹の美那(矢作穂香)に恋心を抱きながらも、女友達のあきね(山崎紘菜)や千歳(門脇麦)と“不良”なる青春を謳歌していた。しかし、我が「生」を自分の意思で生きようする彼らの純粋で自由な荒れぶる日常は、いつしか戦争の渦に飲み込まれてゆくのだった……。

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というような内容で、まああらすじ読んでも全然どんな映画かわからんな、と思って取りあえずスバル座に入ったところ、唐津くんちの曳山囃子が流れているではないか!東京のど真ん中で聴けるとは思ってなかったので軽く感動。で、期待満々で映画本編へ突入。始まってすぐ、あ、これヤバい映画だわ。と実感した。

 

合成感がハンパねぇ!!

というのも全編に渡って映像が合成合成アンド合成。敢えてなのか分からないが、明らかに背景と馴染んでいない俳優人がとんでもなくミスマッチを生んでいる。

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上記の画像をご覧いただきたい。背景の月があまりにもデカすぎるのだが、これが全編に渡ってあらゆる対象物に適用されている感じ。数十年前のエフェクトの如く舞い散る桜吹雪や、突如として切り替わるモノクロシーンに、あれ?映像実験ですか?と思わずにはいられないのだ。新しい取り組みなのかな・・と思ったが、大林監督の他の作品もこうなのかな?誰か教えてください。

 

3人の男達がマジでキモすぎる

そんで、映像はまあ慣れるからいいとして、主人公格の3匹のオッサン達が17歳の高校生役を演じてるのですが、これがまぁ全員が全員ともヤバい奴らで。あ、ネタバレ書くので以下ご注意。

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榊山俊彦(窪塚俊介)

本映画の主人公だ。上記の紹介絵では主人公にも関わらず後ろで人民服みたいな格好で佇んでいる人物がそれだ。こいつがまぁ気持ち悪い。まずその登場シーンに圧倒させられる。明らかにオッサンなのだが17歳の設定なので学生服を着ており、海に飛び込めるかどうかの肝試しをしている。その言葉遣いが、え?高校生でもこんな幼い言葉遣いじゃなくね?って感じで幼稚なのだ。

「ちょっとだけだよぉ~(デュフフ)」

「美那ちゃん、ねぇ(デュフフ)」

「吉良くんはすごい友達なんだぞー!(デュフフ)」

といった具合にその喋り方と白痴の如き笑顔に恐怖すら感じるレベルで、一緒に行った後輩は「素でアレな役者なのか、監督からこうしろと言われてやってるのか」と評した程であった。確実に後者であろうが、この窪塚俊介という役者を他で見たことがないのでしょうがない。ちなみにこの窪塚俊介、あのKINGこと窪塚洋介@KINGはキング牧師のKINGね、の弟だというから驚きだ。言われてみると面影はあるが、正に怪演といった意味では兄貴に引けを取らない格好だ。

物語はノンポリである榊山が2人のサイコパスに影響され、振り回されるように進展していくのだ。

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※高校生役はギリギリ、いやアウトだろう。

 

鵜飼(満島真之介)

アポロ神の如き美少年と評される満島ひかりの弟は確かに画が映える。が、こいつもヤバい奴だ。孤高の存在としてカッコよく描かれているようで、一人で学校を抜け出して意味なく海で泳いだりする。だがその節操のなさに観客は驚愕する。千歳(門脇麦)というメンヘラ彼女がいながら、寝取られ属性を有しており、ある時榊山に彼女を交換しようと持ちかける。さらには榊山の叔母である常盤貴子にも手を出したかと思えば、歓楽街で盗み出した軍馬に全裸で跨り、後ろに全裸の榊山を抱きつかせるというホモホモしき変態性を如何なく発揮する。

そして唐津の魚屋町出身にも関わらず標準語を話す。

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※まあ美少年ではある。

 

吉良(長塚圭史)

最後に、最もマジキチなのが長塚圭史演じる吉良だ。コイツは紛うことなきサイコパスだ。虚無僧のようだと評される吉良は足が悪いらしく杖をついていて、一見只者ではない風貌であるし、まず何より明らかに40代のオッサンであるにも関わらず学校で授業を受けている。他のキャストは百歩譲って高校生役を認めるとしても、この役者だけは高校生には絶対に見えない完全なるオッサン、オッサンオブオッサンだ。その類稀なるサイコパスエピを紹介しよう。

まず、鵜飼の買ってる犬をなぜか殺す。そしてそのお詫びか何か知らないが、熱湯に手を突っ込むという男気。アンド幼馴染であり鵜飼の彼女である千歳(門脇麦)と寝ていたという事実が発覚。飄々としていながらやってることが全部狂気染みており、最後は盗撮紛いのことに手を染める訳の分からないダークサイドキャラなのだ。気持ち悪さの癖が強い!

共演する常盤貴子とリアルで夫婦であるという事実も見逃せない。

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※完全なるオッサンに度肝を抜かれる。

 

モチーフとなる唐津の風景

そして劇中モチーフとなる唐津の風景がふんだんに織り込まれており、ゆかりのある者としては結構楽しめた。

まず高島。高島は「母なる島」的な感じで全編に渡って聖地的な位置づけで出てくるが、地元民としては高島ってそんな重要視される島だっけ?というのが正直な感想だ。高島には人が住んでいて、その住民のほとんどが野崎姓である。そして宝当神社という神社があって、宝くじが当たるとか言って全国から観光客が来る。あと猫が多い。それだけだ。でも映画で見ると、結構綺麗な島だな、と思った。

 

次に唐津くんち。14台の曳山がしっかり出てきて、あー、地元も全面協力したんだな、と感慨深かった。物語後半にバンバン登場するんだけど、結構迫力があって楽しめた。やっぱ鯛山が一番華があるよね。北島三郎の「祭り」で紅白に出ただけのことはある。(鯱の方だったかな?)

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他にも立神岩や虹ノ松原など、地元の名称がふんだんに使われていて好感が持てました。

 ただこれだけは言わせてほしい。お前らが軽々しくピクニックに行ってる名護屋城は市街から歩いたら4時間はかかる山の中だからな!

 

娼館でのおばちゃん達

ちなみに、唐津の映画だから唐津弁勉強してるのかな?と思って見てたけど、主要キャストは一切唐津弁を話さないが、娼館での三輪明宏風のババァだけが流暢な唐津弁を話していた。それもあまりにも流暢過ぎてネイティブの私ですら聞き取れないレベルで、九州人以外の人が聞いたら何言ってるかマジで分からないと思われる。

ちなみにこの人、地元民なのかな?セリフとしては、唐津城の城主は6代替わってるとか、唐津城は天守が無い城だとか、めちゃくちゃマニアックなことばっかり言ってた。「唐津んもんは曳山ひくとに命賭けとるとばい!」ていうのが印象的だった。

とか思ってたらこのオバちゃんピーターだったんだ。。流暢な唐津弁お見それしました。

 

さいごに

全編に渡り意味不明なシーンが多かったが、斬新な映像体験でした。とかく、結核のヒロイン美那(矢作穂香)がとってもキレイ。後輩は常盤貴子派だったようですが、私は俄然こちらでした。絶世の薄命美女として描かれていてとってもよかったです。(小並感)

ちなみに、反戦映画的な位置づけとなっていて、監督もそのような意図で製作されたとのことですが、僕的には戦争的なニュアンスというよりは完全にエロ系という印象が強かった。といってもそこまで過激なシーンはないですけどね。監督のフェチみたいなもんを感じました。

万人におすすめできる映画かと言われると即答しかねますが、個人的には地元を題材とした映画ということもあり結構楽しめました。

 

そんで、原作の檀一雄の著作ですと「檀流クッキング」がとにもかくにも最高の面白さですので最後に紹介させていただきます。これはまさに『スゴ本』です。