キジ猫世間噺大系

一人暮らしで猫を飼った男の末路

0から始めるコーヒー沼のすすめ

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かれこれ1年ほどコーヒー沼にどっぷり浸かっているのですが、この沼に興味がある人々が周囲に割といるので、備忘録を兼ねた引きずり込むための手引となります。

必要な道具

まずはコーヒー初心者が揃えるべき道具を一通りお伝えする。商品リンクを貼ってはいるが、ぜひ自分の目で吟味して納得いくものを揃えてほしい。

ドリッパー

ただ抽出するための台に過ぎないと思うかもしれないが、形状、穴の数や大きさ、素材によってコーヒーは千差万別の表情を見せる。

初心者であればまずはハリオV60をお勧めする。これは恐らく世界で最も使われているドリッパーだ。円錐型で大きめの抽出孔が一つ。スタンダードにして王道。プラスチック製であれば数百円で買えるため、こいつでハンドドリップのイロハを学ぶと良い。

次点はカリタ式だ。円錐型で小さめの孔が3つあり、抽出が速くなる傾向にある。もちろんハリオとは味わいが異なるが、それには自分なりの基準を持たないと気づけない。まずは一つのドリッパーで基準点を確立しよう。M-1グランプリの第1バッターを基準点とするのと同じだ。

基準ができれば後は色々と気の向くままに試せばよい。素材だけでも、陶器、ガラス、セラミック、金属などがあり、近年は紙フィルター不要のものもよく見られる。きっとお気に入りの一台が見つかるはずだ。このオリガミドリッパーなどはカラバリが豊富にあってあれこれ悩みながら選ぶのも楽しいだろう。

コーヒーミル

初心者の方は概して店舗で粉に挽いてもらっているが、絶対に絶対に豆は自分で挽くべきだ。コーヒー豆は生鮮食品である。粉にした瞬間から急速に劣化が始まり風味は全て損なわれてしまう。ハンドドリップでは挽きたての豆を使うのはほぼマストと思ってよい。

ミルにも沢山の種類があり、手挽きから電動まで様々だ。初心者であれば筆者は手挽きをお勧めする。電動はやたらと高価だからだ。また、手挽きは持ち運びに便利なため、キャンプやハイキングで大いに活躍する。外で手挽きしたコーヒーの美味しさは格別だ。一台持っていて絶対に損しない。まずはミニマム投資から始めよう。

ドリップポット

まずは必要性から話そう。君がコーヒーを始めたてであればヤカンやケトルから直接注ぐ、というのをやっているかもしれない。技術があればそれでも充分に美味しいコーヒーが抽出できるだろう。だが、抽出に際して最重要なのは「一定の時間で適切な量のお湯を注ぎ、粉とお湯の接触時間をコントロールするとこと」である。そのためには、少量のお湯が一定の細さで出てくるドリップポットは不可欠である。

ドリップポットがあれば自分が狙った通りに抽出時間をコントロールできるし、後述するコーヒードームも作りやすい。こちらも種類が無数にあるが、デザインを見て決めるとよい。個人的には銅製のものが経年変化が楽しめるのでおすすめだ。君だけの風合いを出したいならば、銅製に勝る素材はないだろう。

コーヒーサーバー

君がもし、一杯取りしかやるつもりがない、というのであればサーバーは不要だ。直接カップにドリッパーをセットして一杯分を抽出すればそれで事足りる。だが、夏にアイスコーヒー用のコーヒー氷を作ったり、2杯取り以上を行う可能性があるならば必須だろう。コーヒー沼にハマると人は得てして人に飲ませたくなるものであり、2杯取り以上を抽出するシチュエーションは充分に考えられる。

じゃあどんなサーバーを選べばいいの、という質問には、メモリが分かりやすいもの、と答えよう。細かくメモリがついているものから、150mlのところに点が打ってあるものなど多数存在するが、メモリ無し、というのはいただけない。スケールで重量が分かるからメモリは要らないという人もいるが、スケールを使うのが面倒な時はやがて到来する。メモリがあって、且つデザインが気に入ったものを揃えよう。

スケール

一台持っておくと便利なのが重さと時間を同時に計れるタイプのものだ。抽出時間や量で味が変わってくることが理解できたなら是非スケールで微調整を行うことを試してほしい。コーヒーの味わいの繊細さにきっと驚くだろう。キッチンタイマーで時間を測りつつ重さにも目を配り…というのは割と面倒だ。ここは思い切って高機能のものを購入したい。

温度計

抽出時の温度がコーヒーの味に大きく影響するというのは既に理解していると思うが、焙煎店によっては87℃での抽出を推奨、といったものがある。推奨の温度が豆本来のおいしさを最大限に引き出すと考えるに疑念の余地はないだろう。一旦サーバーに入れて戻したお湯を使う、といった極めてアバウトな言説もあるが、そんなに手間がかかるものでないし計っておこう。

選び方はただ一つ、ポットに立てかけたときに表示面が上を向くものだ。筆者の温度計は電池の重みでクルッと下を向いてしまうため設計者の怠慢を疑っている。

豆の選び方

道具を揃えたらいよいよ豆選びである。コーヒー沼の一番の醍醐味だ。初心者であれば自分がどんな味が好みか分かっていない場合が多いので、まずは以下の3つの産地を飲み比べてみよう。

南米

世界最大規模の産地ブラジルを要する南米は、とにかくスタンダード。苦みに重きを置いた味わいはザ・コーヒーと言ってよい。万人好みとも言える。

東南アジア

ベトナム、スマトラ、ミャンマーなど多種多様な産地があり、その味わいは個性的。華やかな味わいの豆が多いイメージ。特筆すべきはマンデリンという品種。筆者はマンデリンの華やぐ香りに魅力され続けている。

アフリカ

もっぱら酸味が強いと言われがちなアフリカ系は初めは敬遠されるかもしれない。初心者は酸味が苦手という人も多くいるが、少しずつ試していってほしい。酸味の中にも多くの種類があり、探していくうちにきっとこれだという品種に出会えるだろう。

スペシャルティコーヒー

コーヒー豆専門店に行くと、スペシャルティコーヒーと銘打たれた豆があることに気づくだろう。これは、一定の基準に基づき品質管理された農園を特定できる特別な豆であり、近年は豆の中でも一段ランク上位とされている。雑多な豆だと農園の特定ができなかったり、出荷前のピッキング(不良豆を除く作業)が杜撰だったりすることもあるが、スペシャルティであればおよそその心配は無い。もっとも、スペシャルティでなければ品質が悪い、ということはないが、選ぶ際の一つの基準として頭の片隅に留めておこう。

ナチュラルとウォッシュト

コーヒーの果実を生豆にするまでの加工工程には多くの手法があり、ナチュラルとウォッシュトに大別される。ごく簡単にいうと、ナチュラルはだだっ広い場所でコーヒーチェリーを乾燥させて脱穀する方法、ウォッシュトは水槽の水につけてから脱穀する方法である。ナチュラルは深いコクと複雑な香味が出て、反面ウォッシュトはクリーンでバランスの良い味になると言われている。一般的にはウォッシュトの流通が多いが、ナチュラルを見かけた際は是非その違いを試してほしい。

焙煎度合い

こと焙煎に関しては、店側に度合いを指定して自分好みに仕上げることが可能だが、初めのうちは店側が推奨する焙煎度合いでよい。豆によって適した焙煎度合いが違っていてそれを熟知しているのは店側だからだ。焙煎度合いが高ければより黒くなり苦味が強くなり、低ければ豆本来の味わいが出しやすい。飲み方で分類するならば、一般にアイスコーヒーには焙煎度合いが高いものを使う。やはり口当たりが涼やかなアイスの場合は苦味を強く出した方がより飲みごたえを感じられるのだ。

抽出方法

コーヒーの抽出に関してはもはや宗教戦争の様相を呈しており各人が信念に則り様々な宗派を持っている。以下は筆者の宗派に過ぎないことを念頭に読み進めてほしい。また、コーヒーの味を左右する90%の要素は豆の種類である。抽出方法で差がつくのは10%に過ぎないと筆者は考えるが、その10%でいかに最高のアウトプットを出せるかを考えるのが抽出の醍醐味だ。至高の一杯が抽出できた時の喜びは格別である。

豆を挽く

まずはミルで豆を挽こう。調整機能で粗さを指定できると思うが、まずは中挽きで慣らしていくことをおすすめする。粗挽きだとすっきりとクリアな味わい、細挽きだとコクのあるしっかりとした味わいとなるが、これも自分なりの基準点を覚えてほしい。なお、筆者は細挽きが最も豆のポテンシャルを活かせると考え、砂糖の粒子くらい細かく挽いていた時期があったが、やたらと抽出時間が長くなり、目詰まりを起こしていて、雑味だけが強く出る結果となっていた。

また、豆の分量においても色んな意見があるが、1杯取りなら15〜20g、2杯取りなら25〜30gをひとつの目安とするとよい。基本的に2杯取り以上の多めの分量で抽出した方が味が出しやすいとされるが、1杯取りで多く使いすぎるのももったいない。1杯10gとする目安もよく聞くが、それだとちょっと物足りないと個人的には思っている。

温度を計る

豆を挽くのと並行して、お湯を沸かそう。一般に90℃くらいと言われているが、個人的には86℃くらいの低温抽出をおすすめしたい。よりはっきりと豆本来の味を引き出せると考えている温度だ。

抽出

ハンドドリップで抽出する方法は、いろんな人が本当にいろんなことを言っていて、無限の流派が存在するが、基本は蒸らし30秒、抽出2分、といったざっくりで覚えるとよい。蒸らしの工程はどの流派でも一緒である。初めにしっかりと蒸らすことで豆から炭酸ガスが放出され、全体がスポンジのような状態となる。このスポンジ状態にお湯をゆっくりかけることによって全体に行き渡り、余すことなく豆の味を引き出すことができるというわけだ。

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※この写真は残念ながらドームができていない‥

ここで、豆の鮮度がよいと蒸らしたあとの1投目で、爆発的な香りとコーヒードームが発生する。ハンドドリップのハイライトである。コーヒーへの期待感が高まり、最もテンションが上がる瞬間だ。ただしここで鮮度が悪いとドームができず豆がヘタる。初めて購入した店の豆管理のクオリティが分かるのもこの瞬間である。ほとんどの手法では、蒸らし後に適した量のお湯を2分ほどかけて注げば抽出が完了する。

なお、飲む量の半分だけを抽出し、残りの半分をお湯で埋めるという流派が存在する。雑味を極力抑えるためとのことだが、個人的には豆の雑味も含めて味わう、というのが好きだ。文字通り清濁合わせ飲んで嗜むというのがコーヒー道であろう。

豆の入手〜保存方法

日本国内において豆を入手する方法は無限にあり、その辺のスーパーから専門店などどこでも手に入る。また、生鮮食品としての保存方法を以下に記す。

買い方

前述したが、必ず豆の状態で購入しよう。コーヒーを本格的に味わうならばこれが大前提である。次に、その場で焙煎してくれる店がよい。コーヒー専門店でもすでに袋に詰められた状態で売られている場合も多いが、これでは焙煎日時が分からず鮮度が悪いものに当たってしまうリスクがある。少々待ち時間は発生するが、その場で注文に応じて焙煎をしてくれる店がやはり最高である。お勧めの豆や抽出方法を訪ねて有意義な待ち時間を過ごすのも楽しい。

最近ではネット通販も充実している。初回注文割引に力を入れていて、初めは安く手に入るところも多いからうまく活用したい。ただ、若干詐欺まがいのように見えるサイトもあるのでしっかりと条件を確認しながら購入しよう。コーヒーに限ったことではないが、初回限定割引で安く購入したらいつの間にか半年分の契約をしてしまったなんていう話も多いので、しっかりと確認して納得した上で注文ボタンを押そう。

保存方法

購入した豆は容器に密閉して冷蔵庫or冷凍庫で保存しよう。袋のまま常温に置いていたりすると豆はみるみる劣化していく。2週間も常温に置くとまずコーヒードームは発生しなくなり、風味も落ちていることに気づくだろう。おしゃれな保存容器もたくさん売られているが、タッパーでも百均でも密閉できさえすればよい。ただ、お洒落な容器に複数産地の豆を入れてディスプレイするのも憧れる。

さらなる沼へ

これまで基本のハンドドリップのノウハウを述べたが、沼は遥か広大で深遠である。そのほんの一部を以下に紹介しよう。

ネルドリップ

簡単に言うとフィルターを布製にしただけであるが、なかなかどうして奥が深いのである。ネルドリップで抽出したコーヒーは油分が透過するためより濃厚でコクのある味わいが楽しめる。豆本来のポテンシャルを最大に引き出す手法の一つだ。

ここまで聞くとメリットしか無いように思えるが、いかんせん管理の面倒くささは随一だ。使い始めの時に煮沸が必要で、その後ずっと濡らした状態を保たなければならない。ペーパーであればすぐにゴミ箱にポイすれば済むが、ネルは毎回洗って保存容器に入れて冷蔵庫で保管しなければならない。ただ、その手間を持ってしてもネルドリップの味わいは格別である。比較的試しやすい沼でもある。

自家焙煎

ここまで来るともう引き返せないレベルであるし、沼の行き着く先のイメージが有るのが自家焙煎だ。筆者もまだ試してはいないが、一方で、案外簡単で取り組みやすいとの意見もある。気分に合わせて自分好みの度合いで焙煎することができるし、なんと言っても味のランクが別次元になるらしい。キッチンがひどく汚れるし家に充満するオイニー問題もあるため筆者は二の足を踏んでいるが手を出すのも時間の問題だろう。

ラテアート

リーフやジブリキャラがあしらわれた美しいラテアートを誰しも見たことがあるだろう。無論熟練の技が必要な超高難易度の沼だが、だからこそ取り組み甲斐があるというものだ。しかし、これまでのコーヒー豆だけのノウハウとは一線を画し、エスプレッソマシンの導入など抽出方法の根本的な転換が必要なためハードルの高さは∞である。筆者はまだまだ指をくわえながらYouTubeで超絶技巧を眺める日々が続きそうだ。

コーヒーの愉しさとは

まだまだコーヒーの世界は奥が深く、カップを集めたり、豆の種類を探求したり、カフェを巡ったり、美味しいお茶請けを見つけたり、その楽しみ方は無限だ。ただ、コーヒーの魅力は何かと問われた時、筆者は「合法的にのんびりできること」と答えるようにしている。

コーヒーは言わずもがな嗜好品でありドラッグであり、時代や地域によっては禁止されていたこともあるくらいの代物だ。カフェインの覚醒効果は覿面で、仕事の友にも、昼下がりの眠気にも最適である。朝起き抜けに美味しいコーヒーを飲むと一日の充実度が違ってくる。

そして、なんと言ってもコーヒーを飲む時間はのんびりした気分になる。ホッとできるし気分転換にもなる。人生に必要な休息を手軽に取れる。目的だけが人生ではない。道中も楽しまなきゃ。そんな当たり前のことを思い出させてくれる存在だ。

 

流れる時に立ち止まったとしても

自分の来た道は振り返らない

隠した気持ちは新しい朝にたてた

コーヒーの苦さ

by STUTS & 松たか子

 

ビターな想いも今日への活力に変えて進みたい。そんなオトナに最適な趣味、それがコーヒーなのです。