食品サンプル職人になりたい人生だった。
うらぶれた路地の古い食堂にあるやつ。埃だらけできったねぇやつ。箸が謎の力で浮いてるやつ。固形のラーメンの汁が丼からズレてるやつ。様々な食品サンプルのカタチにわびさびを感じ、いつかは作ってみたいと抱いた少年の志は、ただのリーマンに内定をもらった瞬間に露と消えた。
そんなある日、東京は浅草の近くに合羽橋道具街なる包丁マニア垂涎のエリアがありその一角にこれでもかと食品サンプルを押し出した界隈が存在するという噂を聞いた。調べてみたらば何と製作体験ができるという。
今回は「元祖食品サンプル屋」にお邪魔して、大好きな食品サンプル製作体験をすることと相成りました。
元祖食品サンプル屋
まずはこちらをご覧いただきたい。
見てください!この遊び心溢れる作品を。かわいすぎる。
ニンジンがめいめいシチューやカレーの中で寛ぐ姿はさながら日光の三猿のように様々な表情を持つ。手前は一人暮らしの学生時代フラれちゃったのかな、左は悠々自適成功者の余韻、右は家族と仲良くくつろぐの図。知らんけど。値段は何と8万円です。
このニンジンが迎えてくれた先に食品サンプル体験コーナーがある。作るものは天ぷらとレタスだ。なお、予約必須です。定員16名なんですが今回は満杯でした。体験概要はこんな感じ。
■製作体験概要
対象:小学校1年生以上
定員:1回16名まで
料金:2,160円(税込)
時間:1回60~75分
タイムテーブル:①11:00~ ②14:00~ ③16:00~
内容:天ぷら2品、レタス1個
※期間限定でパフェやワッフルなどもやってます
いざ、食品サンプル製作体験!
まずは天ぷらのネタをこの中から選ぶ。この時点ですでにリアルなんだけど、これらは全て蝋でできている。きっと広末涼子の家にはこんなのがたくさんあるに違いない。
ちなみに、食品サンプルは日本発の文化で、こと欧米には一切存在せず、パツキンのチャンネーをこの辺りに連れて来た日にゃOh My God!! Hold me tight!!と叫ばずにはいられないとかなんとか。
大正末期~昭和初期に現れた食品サンプルは、東京での食の流行を地方へ伝える伝道師としての役割を果たしていました。
一人2つまでネタを選ぶことになるのですが、我々は3人で来ていたのでほぼ全てのネタをコンプリートできた。数は力なり。やっぱり一番人気はエビ天で、他に来てた人は皆んな案の定エビ天をノミネートさせている。
これがドロドロに溶けた蝋。これから天ぷらの衣とレタスが生まれるのです。
実際にエビ天を作ってみた
では、ここから実際にエビ天を作る工程をお見せします。このようにドロドロに溶けた蝋を人肌程度の温度のお湯に高い位置から落としていくと、本物のてんぷら粉のようなものができてくる。
てんぷら粉にエビを乗せるとこの通り。この絵だけみるとめっちゃ熱そう。中国のびっくり人間で油に手を突っ込んで唐揚げ作る人いたけどまさにそれのようだ。
くるっと素早くひっくり返して形を整えるとこの通り。どこからどう見ても特大のエビ天だ!ちなみにこの時に決して衣部分を触ってはいけない。「絶対に上触らないで!絶対に上触らないで!」て散々言われたにも関わらず、案の定上触って衣を潰したのは何を隠そうこの私だ。俺は出川かもしれない。
この後、水にくぐらせると冷えて形が固定される。
レタス爆誕
お次はレタス。白と緑の蝋をこのように二層に浮かべていく。
白い部分を持って、一気に下まで沈めて引っ張る!
バシャーと上げるとこの通り!ここが一番のハイライト。
丸めて切ったら完全にレタス!シャキシャキの食感まで伝わってきそうだ。
てんぷら盛り合わせの完成!
で、我々3人の合作がコレ。どこからどう見ても天ぷらにしか見えない。まさにコルトピの所業!神の左手悪魔の右手と書いてギャラリーフェイク!(わからない人ごめんなさい)
このレイアウトにするために手で並べてたんだけど、地味に蝋のベタつきも影響してか、完全に天ぷらを素手で触っている感覚に襲われた。そしてそれは若干の不快感を伴ってすらいるのだ。ハンパない。写真撮るためにスマホ持とうとして躊躇したからね。ベッタベタの油が確かに見えたよね。やはり我々が視覚から得ている情報は莫大である。
お店を彩るサンプルたち
それで、店内には様々な食品サンプルが展示されていて、これがもう見てるだけで楽しい。このパスタなんてすごくないですか!?毎年社内でコンクールを開いてサンプルの腕前を競うらしい。左のかつとじなんて泡立ちまで表現されてて本物を超えるシズル感を伝えてくる。
この目玉焼きもめちゃくちゃリアル。この人は醤油派で、かつご飯に乗っけて食べるタイプのようだ。私に言わせれば邪道とだけ言っておこう。
このハンバーガータワーもハンパじゃない。実際はこんなに積み重ねられないだろうから、現実にはありえないようなものを作ることができることも食品サンプルの魅力の一つだ。
極めつけはこのタン塩。この塩ダレのかかり具合、どこからどう見ても本物にしか見えない!牛の舌の味蕾までもが忠実に再現されている。
なんてね。これはサンプル作った後に浅草で食べた焼肉でした。騙されましたか?
おわりに
見てくださいコレ、猫すらも騙される。完全にさつまいもの天ぷらだと思っているようだ。実際にかじりついたからびっくりした。
というわけで、なかなか充実した合羽橋体験でした。3Dプリンターなんかが台頭すると言われてるけど、昔ながらの職人技が息づいている手作りの食品サンプルには敵わないよ、と願望を込めて言ってみます。
食品サンプル、実際に家庭で作ることができるキットも人気ですね。特にお子さんのいる家庭では大人と一緒になって製作を楽しめると思う。先日、下記のクリームソーダを作れるキット(1,500円)を知り合いの家族にプレゼントしました。お手頃価格で喜ばれるので、かなりおすすめです。