キジ猫世間噺大系

一人暮らしで猫を飼った男の末路

【ネタバレ】『三度目の殺人』超要約&感想 これはモヤモヤ感を楽しむ映画です

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ここ数年、和製クライムサスペンスものが定期的に観たくなる病を患っている私はTSUTAYAに「愚行録」目当てで行ったのですが、「愚行録」全部借りられてて、それがもうほんとショックで代わりにクリーピーとかいう香川照之サイコパス映像を借りたらばこれがもうクソで。付け焼刃のまぬけなサイコパスなんか出してもしょうがないでしょ、きょうび。

他に一緒に借りたムーンライトだかララランドだかは観ずに返すという暴挙だし、やってらんねー、どっかに脳天ガツンと来るようなもんはねーかと飢えておりましたらば、あの是枝監督の法廷サスペンスが上映されてるとかいうので池袋に観に行ったらばなかなかどうして、すっきりしないけど後からじわる系のよき映画でした。

そんで「三度目の殺人」。是枝監督だからやっぱ期待値は上がるわけですよ。初めて監督の「誰も知らない」を観たときの衝撃はそりゃあすごくて、あぁ、ドキュメンタリー映画ってこんなリアルなんだって思ったし、何なら3日くらいヘコんでたし、この監督すごいなってなりましたよ。そんな是枝監督の話題作だからとりあえず観とかないと和製サスペンスは語れねーなとかなんとか言って観てきた次第です。

たまたま10月1で、1,100円で観れる日なんかに行ったもんだから、もう一番前の席しか空いてなくて。そりゃあもうプラネタリウムかってくらい上見なきゃなんなかったし、画面近すぎてこんな巨人が襲ってきたらひとたまりもねーな、絶対調査兵団はやめとこってくらい福山雅治の顔デカかったし、隣りがバンギャで後ろが映画観ながらしゃべるタイプのオッサンだったりでもう大変でした。

これから普通にネタバレします

映画レビューのセオリー無視して適当にあらすじ書きますけども、内容としては敏腕弁護士である福山雅治が、勤め先の社長を殺しちゃった役所広司の弁護をするんだけども、その役所がまた再犯なわけです。30年前も殺人事件で逮捕されて服役してたから、もう死刑は免れなさそうなんだけども、なんとか無期懲役に持っていこうとするの、福山が。

そんでこの映画の肝が役所の発言がコロコロ変わるところなんですけども、最初は金目当てでやりました、て言ってたんだけど急に被害者である社長の嫁の斉藤由貴に殺害を依頼されたとか証言を変えて、最後は容疑を否認するようになるんです。これには福山もブチ切れて、本当のことを教えてくれよ!って怒鳴りますよそりゃあってなもんで、要は何でこんなに証言を変えるんだよというところがこの映画の推理要素なのです。

ちなみに容疑者である役所はかなり独特なキャラで、そんなに悪人悪人してないんですよ。でも時折怖い、みたいな。あまつさえ人の心を読む系の超能力持ち。なんというかその役の深み的なところが役所広司にしか出せないもので、すごいものを見てる感はかなり味わえます。これがほんとのお役所仕事つってやかましわ。

証言を変えた理由

で、役所が証言を変えた理由がですね、これがまた泣けるんですけど被害者の娘である広瀬すずを助けるためなんですよね(これも諸説ありますが)。広瀬は被害者である父親のことを、まあ、なんだ、あれがあれで、心の底で憎んでたんですね。そんなことから役所は広瀬のよき理解者で、広瀬の希望を叶える形で犯行に及んだ、というのが広瀬が福山に語った話なんだけど、それを法廷で広瀬が証言したら父親から受けた辛い仕打ちが明らかになってしまう。それを回避するために役所がとる行動が、容疑の否認。役所がやってないという以上、広瀬は法廷で証言できなくなりますからね。

役所が容疑を否認した結果、今まで争点に上がってなかった犯人性の有無を含めて裁判は継続になるんですけど、訴訟経済の観点から裁判長が皆に示し合わせてちゃんちゃんで死刑確定。それは役所の望むところでもありました。

結局誰が殺ったの?

結局犯人が誰かだったかは作中明らかになりません。判決通りに金目当てで役所が殺したのかもしれないし、広瀬すずの意向を忖度して殺したのかもしれないし、はたまた広瀬すずの犯行を被る形で自供してるのかもしれないし、2人で殺して役所だけが被った形かもしれないし、真相は闇の中。いずれにしても、掴みどころのない犯人に翻弄されたまま福山と一緒にもやもやしたままエンドロールを迎えます。

三度目の殺人が意味するところとは、恐らく役所が自分自身を殺したことか、福山が真実を掴めずに役所を死に追いやってしまったことを指してるんだと思います。結局法廷とは本当のことが明らかになる場ではなく、システマチックにひとまずの結論を出す場でしかないのでしょう。

これは作中で出てくるテーマなんですが、人は、意志とは関係なく生まれたり死んだりする不条理な世界で生きている。罪を犯した自分を自分自身で裁くことこそが役所的な不条理へのけじめのつけ方だったのではないでしょうか。

とそれっぽく言ってみる。

おわりに

この映画、是非複数人で観にいってください。モヤモヤだからこそ人によって解釈が異なるはずなので終わった後スタバなんかでフラペチーノ片手に自論を展開するのもまたオツなものでしょうし、僕みたいに一人でソッコー解説見るのも味気ないもんでしたよ。

あ、最後に、この映画の斉藤由貴がかなりスゴい。私生活で色々あった彼女にしか出せない演技が出せてるかも・・!必見です。