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【実録】親父がハマったねずみ講 『天下一家の会』

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※本記事はねずみ講が完全合法だった時代の父親の話です。今は違法ですのでご注意。

 

ネットワークビジネスってよく聞きますが、皆さんはねずみ講のシステムはご存知でしょうか。現在もねずみ講まがいのビジネスが存在しておりますが、昭和40年代には日本に初めてねずみ講が登場し、延べ180万人が熱狂した時代がありました。昭和14年に九州の片田舎に生まれ、現在70代の僕の父親も当時熱狂した者の一人。

父は個人事業をやっていたこともあり、当たり前のようにねずみ講にも手を出していきました。今回は、先日父親から聞いた、日本初のねずみ講「天下一家の会」についてレポします。

 

ねずみ講とは

正式名称は「無限連鎖講」。親会員から子・孫会員へと会員が無制限に、ねずみ算的に増殖していくシステムのこと。要するに、子が孫を産んで、孫がひ孫を産んでってやってたら倍倍ゲームどころか乗数の掛け算のペースで会員が増えていくもの。今でこそ違法だが、昭和40年代には完全合法で、商材は現ナマのお金。

参考までにねずみ講の絵を作ってみた。これ作るだけでも既に3代目以降は枠からはみ出してしまった。3代目J-Soulブラザーズくらいはみ出してしまった。と言ってみる。

そのくらい人数を要するビジネスなのである。

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ねずみの親玉 内村健一氏

そして、昭和42年に病院のベッドの上で天啓を得た男が存在した。名前は内村健一。この人は熊本出身の元特攻隊員で、なんと1945年8月17日に特攻予定だった。

後に莫大な資産を形成することになるのだが、意外なことに話術に優れているわけではなかったとのこと。

"ネバ口"と言われ、田舎なまりで考え考えしゃべる朴訥なスタイルだが、相手の目をじっと見て話す姿勢にはなんとも言えない説得力があったようだ。実際に父は後述するピラミッドの中でこの人に会って握手をしているが、どんなイケイケのヤツが出てくるかと思ったら、ガチめのコミュ障が出てきてビビったと九州弁で言っていた。

 

天下一家の会の仕組み

そんな内村氏が作ったねずみ講の仕組みは下記であった。確かにこの発想はすごい。

 

・Aは2,080円を出資し、本部から指定された5代上の会員に1,000円を、残りの1,080円を本部に送る。

・会員となったAは4人の子会員を勧誘し、入会させる。

・子会員はさらに孫会員を4人勧誘し、4の二乗ずつ会員が増えていく。(4人→16人→63人→256人→1,024人)

・1,024人完成すると、Aは1,024人の会員から見て5代上の会員となるため、1,000円×1,024人=1,024,000円が配当金として手に入る。

 

この通り、2千円程の出資で100万円ものリターンがあるのである!

また、このモデルは一番スタンダードな安いモデルであり、父はもっと高いモデルに手を出していた。ちなみに、このように机上で計算すると上記のように100万円のリターンだが、実際はそういうわけにはいかない。

上記の4の二乗のモデルだと15代目で2億6千万人となり、日本の人口をゆうに超えるのである。今計算してみた。従って、早めに手を出さなければ勧誘に苦労することになる、というわけだ。

 

頼母子講とは

ところで、頼母子講(たのもしこう)をご存知だろうか。これは今でも九州や沖縄で行われている庶民の金融システムであり、「無尽(むじん)」や「模合(もあい)」とも呼ばれている。何でも鎌倉時代からあるとか。

天下一家の会を作った内村氏は、この頼母子講に着想を得てねずみ講のシステムを考案したと言われている。

仕組みの一例は下記である。ちなみに父から聞いたそのままなので一般とは違うかもしれない。

 

① 会員を20人集める。(多くは商売仲間や友達)
② 毎月1人10万円ずつ集めると、月に200万円になる。
③ その200万円を会員内で入札にかけ、ほしい人が自分が支払う利息を提示する。
④ 提示した利息が一番高い人がその月の200万円を得る。
⑤ ②~④を繰り返し、毎月必ず1人が200万円を得ていき、20ヶ月目に20人目が受領した時点で1セット終了。

 

なお、200万円を落札した人は、落札時点から終了までの利息を払い続けなければならないため、すぐにまとまった金が必要でない場合は終盤で落札する方が利息が少なくて得をすることになる。しかし、商売をやっていると急に大金が必要になることはよくあることなのだ。

このシステムだと、銀行にお金を借りることなく、必要な時にまとまった金が手に入る。しかもその地域からキャッシュアウトがないというメリットもある。

ただ、リスクももちろんあり、出資者が飛んだら(夜逃げしたら)全員で穴を埋めなければならない。父もこれで痛い目を見たことがあるとのことだった。

 

拡がる会員数からのピラミッド建立

閑話休題。

内村氏が設立した天下一家の会の会員は瞬く間に地方都市に拡散した。当時の時代背景として、農村部の過疎化や、血縁や地縁が強固だったこと、また高度経済成長期であったこと等も追い風になり、最盛期の会員数は180万人を超えたという。実に日本の人口の1%以上である。

また、13億円を費やし、天下一家の会は熊本県は阿蘇の地にピラミッド型の建造物を建立した。今は廃墟になっているらしいが、ねずみ講そのものの構図を現しているようで、悪趣味な建物である。


内村氏は、自家用飛行機を保有し、当時日本に数台しか存在しなかったリムジンを乗り回していたという。余談だが、父は勧誘成績が優秀だったらしく、何度もピラミッドに呼ばれて酒を飲んだという。

僕が就活を終えて内定先を父に報告した時も、

「●●に決まったか。●●に勤めていた友達が一人いたが、俺がねずみ講を紹介したらそいつは会社を辞めた。」

と言っていた。なんと罪深い。

また、当時、天下一家の会は宗教色を強めていき、下記のような思想もスローガンとして掲げていた。だが、動くものは結局現ナマのみであった。

 

「世界万民、助け合って天下をひとつの家とする。いわば人間みな家族。白人も黒人もない。相互扶助のスクラムをガッチリ組むこと。」

 

ちなみに、天下一家の会の思想に共鳴したか一応父に聞いてみたところ、当時そんな人は一人もおらず、現ナマの魅力だけでやってたとのことだった。考えてみると、表面的には現ナマが動かないカルト宗教の勧誘力は恐るべしといったところか。

 

無限連鎖講防止法 爆誕

絶頂を極める天下一家の会だが、徐々に勧誘に行き詰った末端会員が出始めた。詐欺的商法として社会問題になっていたことや、人口の有限性もあり、勧誘の難易度が鬼になったのだ。
従って、警察も捜査に乗り出すことになったが、ねずみ講は当時は完全に合法。内村氏は別件の脱税容疑で逮捕されるも、トータルの会員数は増え続けた。

 

父が参加したピラミッドでの集会で、内村氏へ「このまま破綻することはないか」といった質問が飛んだらしいが、

 

「人間はどんどん生まれるし、脱会者もいる。その脱会者がまた入ることも十分ある。破綻することはない。」

 

と言い切ったという。

とは言ったものの、各地で次々と訴訟が発生、内村氏は参院選に出馬するも落選し、天下一家の会は急速に求心力を失っていった。
そんな折、昭和53年に無限連鎖講防止法(通称 ねずみ講防止法)が制定され、天下一家の会は解散に追い込まれることとなった。世界の人口は有限ですぐに破綻すること、楽して金を儲ける反社会的な性質を持っていることが理由であった。


その後、内村氏は昭和55年に破産宣告を受け、平成7年に持病の糖尿病でこの世を去ることになる。

栄華を極めた天下一家の会の最後はあっけないものだった。

 

なお、驚くべきは、内村氏は脱税でこそ有罪となったが、詐欺罪、出資法違反のいずれについても罪に問われることはなかったことである。まさに、法の抜け道を通したと言えよう。

 

父はというと、社会問題が表面した後、勧誘した人達(多くは友人)に金を返したため、最終的にほとんど利益は残らなかったという。当時、父の周囲ではこぞって金を返していたそうだ。そうしないと、まあ友達なくすよね。 

 

天下一家の会から学ぶこと

今はビジネスモデルを考える際に散々言われていることだと思うが、天下一家の会から学べることを簡単にまとめてみた。

・有限のもの(人)を利用する場合、長期的視野を持ってビジネスモデルを作らなければならない。

・法律スレスレのビジネスは儲かる。

・ただし、世の中そんなに上手い話は存在しない。

 

今でも友人なんかから、先輩にマルチに勧誘されて喫茶店で軟禁された、なんて話を聞くことがあるが、ねずみ講も色々と形を変えて、法の網目を通すようなビジネスが横行しているだろうと思うのでした。

 

最後に、、先日帰省した時に父から水素水をを勧められた。何でも、水素が発生するカプセルを特殊なペットボトルに入れておくと、水素水が簡単に作れるというものだった。

「水素水に釘を入れておいても全く錆びない、お前は身体が錆びる水を毎日飲んでいるのか?」と「お前は今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?」みたいに言われ、だまされたと思って父から1セット購入して一人で水素水作っているのだが、超絶怪しいやんこれ。。