キジ猫世間噺大系

一人暮らしで猫を飼った男の末路

軽い気持ちで裁判傍聴に行ったら思いのほかショックを受けてしまった

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【2017/10/20更新:関連邦画追加】

僕は土日休みなのでめったに行けないのだが、平日に有給休暇をいただきやることがなかった時に、後輩を連れて裁判傍聴に足を運んでみた。阿曽山大噴火さんの裁判ネタをYoutubeで聴いて裁判傍聴は前から気になっていたのだ。
ほんの軽い気持ちで足を運んだ傍聴だったが、思いの外とんでもないものを見ることになり、かなりショックを受けた。結論から言うと、相当に重い判決を見てしまった。今日はこの僕の裁判傍聴記をレポしようと思う。

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裁判所に到着してから

今回の僕の目当ては軽めの刑事裁判である。まだ初心者なので、裁判というものを一度見てみたかった。だが、まずはあまりヘビーじゃないものがみたいな、といった感じで地方裁判所へ足を運んだ。
裁判所に到着するとまず空港のセキュリティのように荷物を預けてゲートをくぐる。武器を持ってないか入念にチェックが入るのだ。無事に建物内に入れたら開廷表を見て今日行われる裁判を選ぶことになる。

開廷表で傍聴する裁判を選ぶ

ちょっとしたカウンターのような台に開廷表が複数置いてあるのだが、民事と刑事がある。今日はより内容が分かりやすい気がするから刑事を見たい。刑事の開廷表を開くと、法廷の番号、開廷時間、被告名、罪状等が事案毎に記載されている。
その中でも、裁判のステータスが分かる項目があり、新件、審理、判決、裁判員裁判等と書かれている。初心者向けには新件が一番分かりやすくていいらしい。また、裁判員裁判も一般人にわかりよい内容を心がけているらしい。
それを踏まえて裁判を選び、結果的に3件の裁判を傍聴する運びとなった。後は時間になるとエレベータで法廷に向かいケータイの電源を切って中に入るだけである。思ったより簡単でしょ?

1件目 覚せい剤取締法違反

傍聴席に入るとそこはドラマでよく見る光景そのものだった。手錠と腰縄をつけた男が両脇を屈強な警察に挟まれうつむきがちに座っている。僕と同い年くらいに見えるその男は、先入観もあってか何を考えているか分からない中毒者そのものに見えた。
しばらくすると裁判長が入廷し、全員起立、一礼して着席。被告を証言台に立たせ、氏名、住所などの確認に入る。印象的だったのは黙秘権の説明である。これは新件の全ての裁判で冒頭に言い渡されている。
「この審理中、被告人には、黙秘権という権利がありますから、答えたくない質問に対しては、答えなくても構いません。」
その後、検事、弁護士双方の言い分を聞き、被告への質問が行われるのだが、その弱りきった被告の態度を見ると、当初の犯罪者感は消え失せ、普通の気の弱そうな青年に見えた。ありきたりだが、心の弱さでクスリに手を出してしまった感じ。地方から借金取りから逃れて出てきてキャッチの仕事の辛さに耐えかねたという。なお、その被告が証言したのだが、今はネットで1時間あればクスリの売人と連絡が取れるという。なんてこった。で、被告が所有していたクスリが袋に入った状態で提示された。始めてモノホンを見た。
この裁判は例外だと思うが、略式ですぐに判決が言い渡されることになった。懲役2年執行猶予3年。クスリの初犯であれば妥当なんだろう。被告はこの逮捕をきっかけに全てやり直すと言っていた。なんかこの被告には憐憫の情が沸いてしまった。なんだかな~って感じ。

2件目 強制わいせつ罪

傍聴席に入ると、女検事が被告のおっさんに早口で捲くし立てているところだった。「犯行の時は家族のことは考えなかったのですか?」とどこかで聞いたことのあるセリフだが、女検事の質問は聞いててもよく意図が分からず、被告も理解できていなかったようだ。
そして弁護士の方も何かある度に「異議あり!」で、その後の反論の意図が不明で裁判官から「異議撤回でいいですか?」とたしなめられるシーンが多々あった。長時間に渡る裁判で女検事に対する苛立ちが募ってたのかな。
被告は道行く女性にわいせつ行為を繰り返していた変態だったのだが、なんか裁判は茶番感があった。こんな裁判はもう日常茶飯事なんだろう。

3件目 強盗致死等

最後は、強盗致死の事件の判決だった。この裁判は傍聴券が抽選となっており、抽選のために裁判所の外で待機した。抽選はコンピュータで公正に行われるという。気づくと周囲には80人程集まっていて、抽選で当たるのは25人だけだった。「当たれ~!当たれ~!」と声に出して祈っていたおっさんがいたが、完全に、大井競馬場でよく見る光景そのものであった。
そして抽選発表でホワイトボートに貼り出される光景は入試の合格発表そのもの。番号を見る。12番、あった。一緒に行った後輩の番号はなかった。

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で、整理券を持って建物に戻ろうとすると、一人の若い男が駆け寄ってきて、「整理券譲ってもらえないですか?お願いします!」とのこと。

 

男「あ、譲るというか買い取ります。自分この裁判ずっと注目していて今まで全部来てるんです」

僕(うわー面倒な感じ・・)「えっと、傍聴券の売買ってやっていいんでしたっけ?」
男「はい、以前もやってますし問題ないです!千円でどうでしょう」
僕(問題ないって本当かよ・・ダフ屋行為っていうんじゃないのか?)「すみません、他当たってください」

 

という感じで断ってしまったのだが、彼の方が有意義に傍聴券を使ったのかもしれない。うーん、判断に迷うところですが皆さんならどうしますか?

 

で、時間になったから 指定の法廷へ向かうとさらに厳重なセキュリティチェックがあった。持って行っていいものは、ペンとメモ帳と財布だけで、後は全て預けなければならない。時間になり入廷し、着席。しばらくすると被告の男が警察に連れられて入廷してきた。僕は人を殺した人間を30年間生きてきて初めて見た。

そして、裁判長が入廷し、起立、一礼。すぐに「被告人は前へ」と促され、

「主文、被告人を無期懲役に処する。なお、本裁判にかかった費用は全て被告人負担とする」

と言い渡された。始まってすぐのことで、こんなに初っ端に判決が言い渡されるとは思わず、当事者でもない僕にとって心の準備も何もないのだが、被害者側の心情に思いを馳せると同時にその重い判決に動揺してしまった。その後は判決に至った争点を延々裁判長が述べるのみ。裁判中、裁判員が8人程座っていたのだが、皆終始下を向いていたのが印象的だった。裁判は一方的な裁判長の通知のみに終始した。退廷後、被告の親族と思われる人が取り乱していた。

無期懲役・・自分がなったらと想像してみようとしてもうまく想像できない。数十年後に仮釈放のチャンスがあったとしても望み薄だろう。感覚としては5億年ボタンのことを考えるときとほとんど一緒である。裁判中、僕には周りの景色にはっきりと色がついて見えていたが、当事者は恐らくそうではないだろう、と思うけど、僕にはやっぱりその心中は想像できなかった。

 まとめ

『裁判長、ここは懲役4年でどうすか?』というクソおもしろい邦画があるのですが、その中で片瀬那奈扮する女検事が「人の人生高みの見物して楽しいですか?暇つぶしならよそでやってください」と啖呵を切るシーンがある。裁判傍聴とは確かに悪趣味と言ってしまえばそうなのかもしれないが、色々考えるきっかけになる。被害者のこと、加害者のこれから、家族のこと、善悪、刑務所での生活、社会で生きるということ。なので僕は一度は足を運ぶことをおすすめします。ただ、凶悪事件の裁判を見るかはダメージもあるので自己判断で。

以下、傍聴に行く前に観るといろいろ捗る関連邦画です。

 

刑務所の中

この『刑務所の中』という映画、刑務所内の生活がリアルに描かれているのですが、ある受刑者の話では完全にリアルと一致しているとのこと。刑務所内で山崎努扮する受刑者(銃刀法違反)と仲間達が繰り広げるちょっとコメディタッチの映画ですが、塀の中もそんなに悪くないんじゃ?と思えてしまう。めちゃくちゃ面白い。

 

裁判長!ここは懲役4年でどうすか 

裁判傍聴をテーマに扱った映画。バナナマン設楽が傍聴マニアになっていく様を描いた映画だが、傍聴のノウハウがこれでもかと詰め込まれていて、ためになる。傍聴前に一度観て行ったらより知見が深まると思う。

 

それでもボクはやってない

冤罪裁判系の金字塔とも言える映画。なつかしい鈴木蘭々が出てくるのもポイントが高い。主人公は冤罪が晴れることを信じて裁判に挑むが。。加瀬亮への感情移入がとてつもなく高まります。