キジ猫世間噺大系

一人暮らしで猫を飼った男の末路

学生時代ムカついてた奴と大人になってから仲良くなれるか問題

この記事をシェアする

高校の頃弓道部に入ってそれなりに一生懸命やってたんですが、同期にゲンちゃんという男がいました。

f:id:kiichangazie:20190817145244p:plain

ぽっちゃり体型で目がギョロっとしてて。あれだ、ちょうど東洋のラスプーチン佐藤優みたいな顔で。あとあれにも似てんなほら、吉本の岡本社長。とにかく、見た目はあんな感じ。

 

そんでボソボソって低い声でしゃべるの。性格はジャックナイフで陰で人のことボロクソ言うからあんまり慕われてないやつだった。

 

皮肉なのが、闇属性なのに名前はゲンキっていうね。名は体を表さないからね。ゲンキって付けたからって池崎みたいにはならんからね。ゲンちゃんは絶対「Oh!ピーナッツ!」とかやらないから。デカい剣持って「これ2トン!!」とかやらないから。

 

どっちかっつーと、ボソボソ呪詛唱えてるようなタイプ。なんてったって、当時のメールアドレスが「freezing_dark_heart@~~」だった。これは大したもんよ。凍てついた闇の心ですから。同期の気のいいNという男が「みんなは解釈を間違ってる。闇の心が凍っているということは、ゲンちゃんはいい奴になったに違いない」とか言ってたけどね、違げーから。どんな光属性発言だっつーの。脳みそまでパンケーキかよって。

 

そしてゲンちゃんは結構弓道が上手くて、男なのに胸当てしててその豊満な肉体から繰り出される矢は結構な確率で的を捉えた。弓道うまいという理由で副主将に選ばれて、ゲンちゃんはムカつくやつだったけど、ヒラの僕らはあまり意見できない、そんな感じだった。要は、腫れ物的存在だったんだ。

 

そんなこんなで僕ら弓道部は色んなわだかまりを残したまま引退し、僕は反省した。3年間もの時間がありながら、ゲンちゃんとの距離を縮める努力をしなかったことに。もっとゲンちゃんをいじればよかったんじゃないか、そうしたら僕らはまた違った形で別れることができたんじゃないか、そう思った。

 

ゲンちゃんは高校を卒業してから地元の大学に進学し、弓道部の集まりには一切顔を出さずに月日は流れて早15年。33歳になった僕らは夏に久しぶりに同窓会で焼肉屋に集まり、ゲンちゃんにも声をかけようと気まぐれに誰かが言い出した。ひとりゲンちゃんの連絡先を知ってるやつがいて、メールを出してみた。

 

皆が一様に考えた。俺らはもう大人だ、ゲンちゃんともうまくコミュニケーションが取れるだろう。でも一方で、3年間うまく絡めなかったやつと大人になったからって絡めるわけがない、という考えが脳裏を掠める。

 

そうだ、あれだ。6年前の中学の同窓会の時、みんな大人になったからうまくコミュニケーションが取れるだろうと勘違いした僕は、中学生当時ほぼ話したことのないケバい女に声をかけたところ死ぬほど気まずい沈黙が流れたのだった。ポカンってなったから。女はよそよそと中学の頃と同じ一軍の輪の中に戻っていった。舌打ちの一つでも聞かせてやろうかと思った。

 

ニートとヤクザとエリートが入り乱れる公立中学の同窓会は、大変に複雑な人間模様が観察された。ソマリア沖の海賊を退治している自衛隊員が、当時一軍だったニートにお酌をさせられている。イキッて司会進行する一軍が、限りなくいじめに近いイジリをしていた非リアをマイクで揶揄する。

 

カネや仕事や結婚の状況で互いを探り合い、マウンティングする会場のさまに嫌気が差し、タバコを吸いに喫煙所に行ったらそこでもDQN同士の武勇伝大会が開催されていた。オリラジじゃねーんだから。馬鹿。彼らの根性焼きは10年以上の時を経てなお腕に生々しく残っていたのだった。

 

時を同じくして友人のR氏は当時のスクールカーストを思い出し、狼狽が両脇に大量の汗染みとなって現れていた。僕らはあまり目立たないようにして悠久とも思える時を過ごしたのだった。

 

ゲンちゃんに話を戻します。

そう、僕らはいくら大人になったからといって、昔一緒に経験を共有し笑い合ったエピソードがなければ、仕切り直しで仲良くなんてなれない。時間が経ったからといって、ウマが合わない、という実感が覆ることは決してないのだ。

 

いや、これが女だったら「あっカオリおひさ~!ちょっと痩せたんじゃな~い?」つってIKKOみたいな感じで絡める。テラスハウス見てたらよく分かる。女はそうだ。ウワベでいける。でも男はそうはいかねぇ。

 

取り繕わない生身の感情でぶつかっていた学生時代のやつらと再会しても、社交辞令は使えねぇ。それが男ってもんだ。

 

ゲンちゃんからメールが返ってきた。

 

「サービス業なので夏休みがなく参加できません」

 

社交辞令を使ってきたのはゲンちゃんだった。

僕は複雑な想いと共に、残りのビールを一息に飲み干した。