キジ猫世間噺大系

一人暮らしで猫を飼った男の末路

梶田先生の夏

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九州の片田舎の高校に通っていた頃、梶田先生(仮名)という数学の教師がいました。

梶田先生は当時、年の頃は28くらい、メガネをかけていて見るからに気弱そうな外見で、生徒からよくイジられていました。


学級崩壊した理系のクラスが一つあったんですが、梶田先生の授業中にいじめられっ子を掃除用具入れに隠れさせる、全員の机を黒板から背ける、などの嫌がらせをヤンキー気取りのクソ野郎たちから受け、授業中に泣かされたりもしてました。


でも、この梶田先生も自らキモカワ路線を走っており、言葉遣いはナヨってるし、全員のこと君付けで呼ぶし、DQNに恐る恐る接するし、サインコサインタンジェントの公式を教える時には「シン♪コスコスシン♪」などと小躍りしながら言ってややウケを狙ったりしてたので、生徒にナメられるのも自業自得だと思ってました。


んで、僕にとっては、梶田先生はたまに道場に来る弓道部の副顧問だったので、世間話する程度の間柄だったんですが、ある夏、盟友のNという男が梶田先生の家を突き止めたから一緒に行ってみようと僕に提案してきたんです。家も近かったし僕も暇だったんで、二つ返事でOKし、夜8時頃にNと二人でチャリに乗って梶田先生の一人暮らしのアパートに向かったんですよね。


で、家の前について、さすがに手ぶらでいくのはまずいだろってなって、自販機で缶コーヒー買ってチャイム押したら、梶田先生が出てきて、半ば強引に家の中に入らせてもらったんです。それなりに広い部屋だったんですが、乱雑に脱ぎ捨てられた服や、洗い物が溜まったシンク、ちゃぶ台の上に散乱した麻雀牌に独身男の悲哀を感じました。


今となっては反省しかないんですが、当時僕らも梶田先生に対してイキってて、先生麻雀教えて下さいよ〜とか、彼女いないんですか〜?とか言ってひとしきり梶田先生のことを困らせました。麻雀はものすごく面白いよ〜、と先生が嬉しそうに言ってたのを覚えてます。


それからNが押入れを勝手に開けたらエロ本が出てきたんですよね。まだ局部が黒で塗り潰されてた時代のやたら生々しいやつでした。それ見て僕ら「いやー、先生安心しましたよ!てっきり僕ら、梶田先生はアッチ系だと思っとったもんやけん!」つって、童貞のくせに梶田先生にカマしてしまいました。先生、顔を真赤にして「もー、せんでよ!」と言ってた。


その後、先生の机でパソコンを見つけまして、先生に2chの存在を教えたんです。その頃僕らは2chでグロ画像を検索するという極めて悪趣味な遊びを覚えていて、先生にもこれを教えてやりたい衝動にかられました。んで、2chのトップページからグロ画像の検索の仕方をひとしきりレクチャーしてあげたんです。


幽白で樹とかいうサイコ野郎が仙水に人間の醜い部分を見せた時の感想で、「キャベツ畑やコウノトリを信じている可愛い女の子に無修正のポルノをつきつける時を想像するような下卑た快感さ」っていうのがあるんですが、僕らは梶田先生に対して似たような快感を覚えていたのかもしれません。


そしたら先生、「君たちよくこんなの知っとるね!」と無垢な瞳でまんざらでもなさそうな顔してました。なんか善悪の分別がついてないような先生の純真無垢な表情を目の当たりにしたその時、初めて大人に対する優越感を抱いた気がしました。その後あまり長居せずに家に帰りました。


事件は翌日起きました。なんとあの真面目な梶田先生が遅刻したのです。絶対2ch見て夜ふかししてるわと確信した僕は、先生に「こっちの世界にようこそ」的なことを言ったんですよね。今思うとそこは「Welcome to underground」って耳元で囁くべきだったなって。そう思うのです。


あの夏、梶田先生は2chの海に浸かったのかもしれないと思うと、何やら心の奥底がミゾミゾしてくる自分がいるのでした。